柔道整復師になりたくて専門学校に通い、国家資格の取得を目指す人は年々増えてきています。ですが、その反面、柔道整復師の離職率も高くなってきています。その理由の多くは勤務形態にあります。転職先や独立開業する際の注意点なども含めて、離職率が多い理由を解説します。
目次
柔道整復師の離職率が高い本当の理由
柔道整復師を志し、専門学校に入学して国家資格を目指す人は年々増加傾向にあります。ですが、離職率が多いのも事実です。その理由は大きく分けて3つあります。それぞれをさらに掘り下げて解説します。
拘束時間が長い
8:30 |
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9:00 |
開院 |
12:00~13:00 |
閉院 |
14:00 |
往診(ない場合もある) |
15:30 |
午後の診察開始 |
19:30~20:00 |
閉院 |
20:00 |
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20:30 |
ミーティングや反省会 |
21:30~20:00 |
退勤 |
これは一般的な整骨院や接骨院のタイムスケジュールです。整骨院や接骨院の中には、通院できない患者様を抱えているところもあります。そのような患者様には午前中の診療終了後、往診に赴いて施術を行ないます。
また、昨今では夜遅くまで開院している病院が増えてきています。21時や22時まで受け付けていると、それだけ患者様が多く集まりますから、閉院の時間は更に遅くなります。その後の院内清掃や片付け、ミーティングなどもそれ以降に行なわれるため、日付が変わってからの退勤になるという病院も数多くあります。
このように、その他の職業に比べて拘束時間が長いというのが離職率が高い大きな理由です。仕事がある日は自分の時間が全く取れないのです。それに苦痛を感じて離職する人が多くいます。
更に、病院によっては休日に勉強会を開くところもあります。本来なら休めるはずの休日も仕事になってしまうため、予定が立てられなくて退職してしまう人もいます。
最初のうちは安月給…
柔道整復師は初任給が安いことも大きな特徴です。通常、大学卒業の一般的な初任給は20万円前後と言われています。ですが、柔道整復師の初任給は17万円程度です。病院によってはボーナスが出ないところもあるため、年収は更に少なくなってしまいます。
柔道整復師は経験値が重視されます。学校を卒業したばかりの人は当然経験が浅いので、初任給が安くなる傾向があります。経験年数が増えれば、月給も年収も増えていきますが、それまで待てないという人が多く、離職率が高くなります。
場合によっては高卒の人の方が自分以上に給料をもらっていることもあるのです。それを考えるとがっかりしてしまって退職しようと思うのは無理ないかもしれません。
独立開業する人が多い
柔道整復師の離職率が高いのは、仕事や柔道整復師として働くことに絶望したからという理由ばかりではありません。ある程度経験を積むと、自分の病院を持ちたいと思う人も増えてきます。学校に通って勉強している時から、開業を目指している人もいるくらいです。
そのような人は、ある程度経験を積むと勤めている病院を退職していきます。独立開業にはある程度の経験と資金が必要です。それらがクリアできればあとは自分の本来の夢を叶えるだけですから、すべての準備が整った時点で病院から離れていきます。
上手に経営すれば、他院などで働いているよりも収入も増えます。そのような夢を持った人も多いので、離職率が高いのです。
離職した柔道整復師は再就職が難しいって本当?
離職した柔道整復師は再就職や転職が難しいと言われています。ですが、これは少し語弊や勘違いがあります。必ずしも再就職や転職が難しいというわけではありません。
特に女性の柔道整復師は、再就職や転職はさほど難しいわけではありません。何故なら、現在女性の柔道整復師を求める声が高まっているからです。女性ならではのきめ細かな施術が高評価を集めていたり、女性患者様が増えたりと言った背景があります。女性の柔道整復師は求める声が高まっているわりに人数が大変少ないため、求人は多く、再就職や転職は難しくないのです。
男性の場合は、再就職や転職に何を求めるかで容易になるか難しくなるかが変わってきます。他の職業に比べ、再就職先や転職先で給料が上がるということはありません。ある程度の経験値は考慮されますが、そこでは新人と同じ扱いになります。技術やスキルの成長を求めるなら再就職や転職に困ることはないでしょう。ですが、高収入を求める場合は難しいと言わざるを得ないのが現状です。
柔道整復師の資格を活かせる転職先は?
柔道整復師の国家資格を取得したら、それを活かした仕事をしたいと思うのは、誰でも同じです。それでは、それを活かすにはどのような方法があるのでしょう。医療関係の転職先だけでなく、それ以外の転職先についても解説します。
別の整骨院
柔道整復師の転職先で最も多いのは、別の整骨院や接骨院です。ただし、この場合は求人情報で見るべきポイントがあります。その一つ目は立地です。退職した病院の近くに再就職をしてしまうのは得策とは言えません。退職した病院はもちろん、転職先の病院もあまり良い気持ちはしないでしょう。
また、求人サイトで転職先の整骨院や接骨院を探す場合は、施術者として募集しているのか、それとも事務スタッフとして募集しているのかチェックする必要があります。整骨院や接骨院が募集しているのは、必ずしも施術者とは限りません。受付などの事務作業を事務員と施術者は別にしている病院も数多くあります。このような情報は求人サイト上で確認することができますから、必ずチェックしましょう。
病院
病院へ転職や再就職する場合は、整形外科やリハビリテーション科が主な就職先になります。病院の規模にもよりますが、大きくなればなるほど、柔道整復師としての知識やスキルはもちろん、それ以外のスキルも磨く必要が出てきます。
例えば、同じ現場には医師や看護師もいます。また、鍼灸師やマッサージ師が勤務している場合もあるでしょう。その人たちと連携するために、専門的な知識を勉強する必要が出てきます。知識として知っていなければ、話が通じなかったり意思の疎通が図れなかったりするからです。
病院によっては、定期的に勉強会を開いているところもあります。積極的に参加して、柔道整復師以外の知識も取り入れる努力が必要です。また、勉強会が開かれていない場合は、自分で学校に通ったり本を読んだりして勉強しましょう。
スポーツトレーナー
スポーツトレーナーとして柔道整復師の能力や技術を活かすという方法もあります。ただ、一言にスポーツトレーナーと言っても、実はさまざまな種類があります。今回はその中でも代表的な4つを紹介します。
アスレティックトレーナー
怪我や故障をしたスポーツ選手をサポートする仕事です。応急処置の技術や知識が必要なだけでなく、リハビリやマッサージのスキルも必要です。また、スポーツ選手が怪我をしないためのトレーニング方法を提供することも求められます。
メディカルトレーナー
怪我をした人ができるだけ早く回復できるようにサポートする仕事です。主な仕事は医師と連携しながら、マッサージなどの治療や施術にあたったり、リハビリやトレーニング方法を提供したりします。スポーツの場面だけでなく、福祉の面でも活躍するので大変注目されています。
コンディショニングトレーナー
肉体だけでなく、メンタル面でもサポートする仕事です。怪我をしたスポーツ選手は今後のことを考えて不安になることがあります。そのような不安定な精神面に寄り添い、身体を回復させるとともに強いメンタルも選手と共につくり上げていくことが目的です。
フィットネストレーナー
スポーツジムやフィットネスクラブなどで、利用者の指導に当たる仕事です。年齢や体力などに合わせたメニューを提供し、ニーズに合わせた身体づくりをサポートします。独自のメニューを考え出して、独立する人も多い仕事です。
教員
柔道整復師から教員に転職する場合、2つの方法があります。それは、柔道整復師教員として活躍する場合と、体育教師として活躍する場合です。
柔道整復師教員として活躍を望む場合は、実務経験を3年間積んだのち、厚生労働大臣指定の柔道整復師専科教員認定講習会を受講します。更に修了試験に合格すると、柔道整復師教員としての資格が与えられ、養成所などで教員として生徒に教えることができます。
体育教師として活躍したい場合は、大学に通って教員免許を取得しなければなりません。もう一度大学に通って卒業しないといけなくなるのです。柔道整復師の国家資格を目指す際、将来的に教師としての活躍も視野に入れて学校選びをすると良いでしょう。
介護業界
柔道整復師は介護業界でも活躍しています。主な仕事は、足腰が弱くなってしまった高齢者のサポートです。それ以上悪くならないような運動や歩き方を提供したり、痛みを取り除いたりすることが求められます。
柔道整復師が福祉・介護業界で働く場合、多くの人は機能訓練指導員と呼ばれる職に就くことが多いです。
主に回復を目的とした施術や技術が求められます。スポーツトレーナーの中で、「メディカルトレーナー」を紹介しましたが、介護業界でもメディカルトレーナーとして活躍している人が多くいます。
年収アップやスキルアップを目指したいなら、介護支援専門員(ケアマネージャー)を目指すことも出来ます。機能訓練指導員として5年以上の実務経験を積み、試験に合格すると介護支援専門員になれます。
高齢化に伴い、重要が増えてきているので求人は増加傾向にあります。
全くの異業種
柔道整復師とは関係のない全くの異業種へ転職や再就職を希望するというパターンもあります。その場合は、新しい資格を取得しなければならないことも出てくるでしょう。自分のスキルアップも兼ねて挑戦してみようとする人も多くいます。
これから柔道整復師の資格を取得しようとしている人は、大卒の資格や教員免許も取得できる大学に進学することをお勧めします。教員免許があれば、中学や高校の教師になることもできます。また、大卒の資格は一般企業に就職する際の大きな武器になります。
大学によっては、簿記などのような事務職に必要な資格も卒業と同時に取得できるカリキュラムが組まれているところもあります。そのような大学を選んで進学すると、柔道整復師としての道だけではなく、経理や事務職と言った違った業種への門戸も開きます。
離職を考えている柔道整復師が知っておくべきポイント
もし離職を感がているのなら、柔道整復師として知っておくべきポイントがいくつかあります。そのポイントを押さえておかないと、離職後仕事が見つからないということが起こる可能性が高まります。
中でも特に注意すべきポイントを3つに絞って解説します。離職を考えている場合はぜひ参考にしてください。
退職理由の伝え方
退職する時には、その理由に気をつけましょう。柔道整復師の世界は、他の業種と違って世界が狭く、知り合いの知り合いなどのように人伝に嘘がばれてしまうということが多くあります。
「家族に不幸があって」や「引っ越すことになった」などのような大きな嘘をついてしまうと、気づかない間にばれてしまうこともあります。それだけなら問題ありませんが、「あの人は嘘をつくから信じない方が良い」などのような噂を立てられてしまうと、今後のキャリアに傷がつくということも考えられます。
退職する時にはできるだけ本当の理由を伝えるようにしましょう。「スキルアップを目指して転職を考えている」などのように伝え、今までお世話になったことを誠意をもって伝えてください。抵抗感があるかもしれませんが、嘘をついてばれた時のリスクを考えた場合、本当の理由を角が立たない形で伝えた方が、今後のあなたにとってプラスになります。
別の資格の取得も考える
柔道整復師として転職や再就職をする場合も、別の業種への転職を考えている場合も、スキルアップということも含めて別の資格取得を考えることも必要です。
柔道整復師として更なるスキルアップを狙うのなら、鍼灸師やマッサージ師のような柔道整復師と精通している資格を取得しておくと良いでしょう。資格があるだけで再就職先の道が広く拓けます。
また、別の業種への転職を考えているのなら、簿記やパソコンなどのような事務系の資格は取っておいた方が無難です。事務職としての経験がなくても、これらの資格を持っているだけで採用される可能性が高くなるからです。
独立開業はリスクもつきまとう
独立開業を考えている場合は、リスクを考慮に入れましょう。独立開業を狙っている人の多くは、独立するまでに最大限の努力をします。実務経験を積むことに夢中になるとともに、資金面でもクリアしなければなりません。これらの難関を突破して独立開業すると、それで満足してしまうのです。
ですが、本当のスタートは独立開業してからです。特に集客率を上げるという課題は簡単にクリアできるものではありません。柔道整復師として独立開業しても、1年の間に4%が廃業しているという現実があります。100件独立開業したら、1年以内に4件は廃業してしまっているのです。
どんな風に経営を行なっていくのか、集客率を上げるにはどのような方法を用いるのが自分に合っているのか、ということをしっかり見極めて計画を練る必要があります。そのため、あまり早い段階で独立開業をすることはお勧めしません。開業後1年間はギリギリでもやっていけるだけの準備が整ってから独立開業することをお勧めします。
柔整師の離職率には開業率の高さが影響している
柔道整復師の離職率は、一般的には高めと言われています。ですが、それは柔道整復師を目指している人が、独立開業という大きな目標を持っているからという理由が最も大きいでしょう。柔道整復師として再就職をすることも決して難しいわけではありません。この記事を参考に、自分の今後の展望をしっかり思い描きながら行動を起こしてください。